校友KIKOU 大宮学舎のおもいで

2024年4月掲載
※所属・役職・記載内容等は掲載時期のものです

校友KIKOU 大辻󠄀 隆弘 さん
校友KIKOU 宮井 功 さん

大辻󠄀 隆弘 さん

卒業年:1983年、卒業学部:文学部哲学科(哲学専攻)
修了年:1985年、修了研究科:文学研究科(哲学)
所属サークル:軽音楽部
所属ゼミ:佐藤 三千雄ゼミ

歌人。宮中歌会始選者。一般社団法人未来短歌会理事長。歌誌「未来」編集発行人。現代歌人集会元理事長。現代歌人協会会員。日本文藝家協会会員。静岡新聞、山陽新聞、日本農業新聞、読売新聞中部版、毎日新聞中部版、公明新聞、各歌壇選者。三重県高等学校教諭。

私が龍谷大学文学部哲学科(哲学専攻)に入学したのは、1979年の春のことでした。高校時代、倫理の授業に興味があって哲学を学ぼうと思ったのですが、最初の2年間はほとんど勉強をしていません。深草学舎の紫朋館の軽音楽部の部室にいりびたりサックスばかり吹いていました。ジャスがやりたくて、やりたくてたまらなかったのです。午後の講義もそこそこに、紫朋館が閉まる夜9時まで練習をする日々が続きました。

哲学の勉強が面白くなったのは3回生の頃。ギリシャ哲学の研究者である佐藤三千雄先生の講義を受け、佐藤門下でもある丸山徳次講師(当時)のもとで現象学を学んでからでした。佐藤先生の哲学研究の授業はユーモアを交えてわかりやすいものでした。そのなかで現代の哲学の基礎がギリシャにあるということに気づかされました。丸山先生はまだ30代前半で西ドイツ留学から帰国したばかり。手ぶりを交えて熱く、ときに厳しく現象学を語ってくださいました。2人の先生との出会いによって、私は哲学の面白さに気づき、本気で勉強してみたいと思うようになりました。

文学部生は3回生から大宮学舎で学びます。私はあの大宮のキャンパスが大好きでした。校門を入ると左手にレンガ造りの守衛所があり、左右には大きなクスの木が枝を張っていました。中庭の砂利にその枝と葉が濃い影を落としています。その影を踏んで北黌に入ると、なかはシンとした静けさが漂っていました。あの校舎で講義を聴くのはとても素敵でした。窓のガラスを通して柔らかい陽射しが入ってくる秋の午後などは「ああ、俺、学問しているなあ」という気分になったものです。

哲学の勉強が続けたくて大学院に進学しましたが、将来の見込みはありません。手に職をつけねばと考え、高校の国語教師になろうと思いました。大学院の講義と平行して国文科の学部の授業を聴講するようになった頃、短歌と出会いました。それから40年間、私は教職のかたわら短歌を作り続け、歌人として活動しています。

短歌を作り、短歌評論を書くとき、私は哲学で学んだことを思い出すことが多くあります。私が研究していた現象学は、目の前に立ちあらわれている事実そのものに即して考える20世紀の哲学です。「事象そのものへ」というその精神は、眼前の自然を見て短歌を作るとき、深いところで生きているような気がします。また、ゼミの原書購読で「このder(ドイツ語の定冠詞)はどこに繋がるのか」といった細かい議論をしながら、お互いの考えを深めていった体験は、その後の人生で大きな意味がありました。短歌の世界では歌会(うたかい)(おたがいの短歌を批評しあう勉強会)をして作品の質を高めてゆきます。一首一首の歌を「てにをは」に至るまで読み味わい、他者と侃々諤々の議論をして歌を論じてゆく。その歌会のプロセスは、まさしく対話(ディアローグ)そのものでした。ああ、プラトンが言ったディアローグの重要性というのはこういうことなんだ、と何度も感じました。

結局、ジャズも哲学もモノにはなりませんでしたが、龍谷大学での学びは深い所で自分を支えてくれている、私はそんな風に感じています。その思いは年々深くなってゆきます。私は、龍谷大学で学ばせていただいたことの意味をこれからも噛みしめながら、生きてゆくに違いありません。