校友から学ぶ 77号

校友から学ぶ-仏教について- 校友会報「仏教に学ぶ」
第77号 「あきず・あせらず・あきらめず」阿弥陀仏のお慈悲

浄土宗西山禅林寺派管長 総本山永観堂禅林寺第90世法主
中西 玄禮

中西玄禮(なかにし・げんれい)41年(昭和16)、姫路生まれ。
63年(昭和38)文学部仏教学科卒、65年に同大学院修士課程修了。81年(昭和56)に大覚寺(姫路市)42代住職に就任。仏教にもとづく人生観を説き続け、10年(平成22)から現職。主な著書に『風韻抄│花信風のように』『花信抄│こころの花ごよみ』『月影抄│わが心の歳時記』(白馬社)など。

“60年安保”の年に

60年(昭和35)に深草学舎が開設され、ここで文学部の教養課程の授業が始まりました。この深草学舎ではじめて講義を受けたのが、私たちの世代でした。ちょうど60年安保の年で、四条河原町から円山公園まで、デモをしたこともありました。
学部時代の卒論は、時宗の祖・一遍(いっぺん)上人について、大学院では指導教授が佐藤哲英先生で、修論は「証空(しょうくう)上人の生涯と思想」でした。証空上人は法然上人の高弟で、私どもの浄土宗西山禅林寺派の派祖です。
大学では法隆寺の高田良信(りょうしん)さんや種村大超(だいちょう)さんなどが同期です。ある時、種村さんが海で泳いだことのない子がいるので、私の自坊の姫路に遊びに行きたいと。そのとき連れてこられたのが当時、高校生だった大野玄妙(げんみょう)さん(72年文院卒、現法隆寺管長)でした(笑)。
サークルは宗教教育部に所属していました。日曜学校や子ども会の、お寺に集う児童が対象です。まずお勤めをして、そのあと学年別に別れて法話をし、そのあとみんなでゲームなどをして遊びます。とにかく子どもたちがよく理解してくれる法話を組み立て、話さなければなりません。私はこの宗教教育部の活動を通して、僧侶としての基礎を学ばせてもらいました。
当時の宗教教育部は、浄土真宗のお坊さんが中心でしたが、私のような他の宗門の学生であっても同じ龍大生として、分けへだてなく接していただきました。今も同じでしょう。それが一切平等という仏教を建学の精神とする龍谷大学の大きな魅力のひとつでしょう。

振り返られた仏さま
見返りの阿弥陀像(重文)

禅林寺の第7世住職で、永観律師(ようかんりつし)という方がおられました。もともと東大寺で別当(住職)までされた永観さんは、天皇の命でこの禅林寺にこられました。そのとき、ご自身が信仰されていた阿弥陀仏もここに移し、阿弥陀堂を建て、日々お念仏を称えておられました。
永観さんは子どもの頃から病弱で、厳しい修行を積む体力はなく、阿弥陀仏の慈悲によって悟りを得るという、浄土信仰の道を歩まれました。法然上人が浄土宗を開かれる100年あまり前のことです。
この永観さんが50歳頃の出来事でした。お釈迦さまがお亡くなりになった2月15日の涅槃会(ねはんえ)に向けて念仏を称えながら阿弥陀仏の周囲を回るという念仏行道(ぎょうどう)をされていたときのことです。6万遍の念仏を目指して15日の明け方にさしかかったとき、目の前に突然、阿弥陀仏が現れ、永観さんと一緒に行道されたのです。思わずその場にひれ伏してしまった永観さんに、阿弥陀仏は左肩ごしに振り返り、「永観おそし」とおっしゃいました。
永観さんはその驚きと感動から、この阿弥陀仏のお姿を多くの人々にと、「見返りの阿弥陀」を禅林寺のご本尊として安置されたといわれます。今も、この永観さんの故事を追体験しようと2月14日から15日にかけて、念仏行道会を禅林寺でつとめています。

阿弥陀仏のお慈悲

私は禅林寺にお参りされた方々によく、阿弥陀仏のお慈悲のはたらきを、「立ち止まって振り返ることで現しておられるのです」と説明します。阿弥陀仏が、一切の生きとし生ける者(衆生(しゅじょう))をお救い下さる誓い、願いは、決しておこたることがないのです(志願無倦(しがんむけん)= 大無量寿(だいむりょうじゅ)経)。このことを私は「あきず、あせらず、あきらめず」という三つの言葉に置きかえています。この「あきず、あせらず、あきらめず」は私たちの日常の暮らしの指針にもあてはまることができるでしょう。このたびの東日本大震災復興が、そうです。
フェイシャルエステの今野華都子(かつこ)さんが、著書で「まゆみの法則」というお話をされています。「待つ、許す、認める」です。この「まゆみの法則」は、まさに阿弥陀仏の誓いそのものです。
私たちは知らず知らずのうちに、人の心を傷つけたり困らせたりしています。その人間の罪悪を、ひろいおこころで許し、私の「いのち」そのものを認めて下さる――そのお姿こそが、立ち止まり、そして振り返って待ち続けて下さる阿弥陀仏のお姿です。
秋になると禅林寺の境内は美しい紅葉で染まります。そのときはぜひ、「見返りの阿弥陀」と呼ばれる仏さまのお慈悲を現すお姿に接していただければと思っています。

紅葉の名所としても名高い永観堂禅林寺
写真上は多宝塔、下は中門

2013年(平成25)10月1日発行