校友から学ぶ 90号

校友から学ぶ-仏教について- 校友会報「仏教に学ぶ」
第90号 英語で学ぶ仏教

2020年3月掲載
※所属・役職・記載内容等は掲載時期のものです

浄土真宗本願寺派大見山 超勝寺 第14世住職
一般社団法人寺子屋ブッダ 理事
著述家 翻訳家
大來 尚順

大來尚順(おおぎ・なおゆき(しょうじゅん)) 82年、山口市生まれ。05年龍谷大学文学部卒業後に渡米。米国仏教大学院に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども手掛け、執筆・講演・メディアなどの活動の場を幅広く持つ。
書籍:『カンタン英語で浄土真宗入門』(法藏館)、『小さな幸せの見つけ方』(アルファポリス)、『訳せない日本語日本人の言葉と心』(アルファポリス)、『英語でブッダ』(扶桑社)、『超カンタン英語で仏教がよくわかる』(扶桑社新書)、『端楽』(アルファポリス)、『つながる仏教』(ポプラ社)、『西洋の欲望 仏教の希望』(サンガ)
メディア:テレビ朝日「ぶっちゃけ寺」準レギュラーテレビ山口tys「ちぐスマ」準レギュラー

 「諸行無常」「諸法無我」「涅槃寂静」「一切皆苦」・・・。 ただでさえ漢字が並び、難しそうに思える仏教を、さらに英語で考えるなんて、余計に理解の難しさが増してしまうのではないかと懸念される方も多いと思います。しかし、仏教語は英語で考えた方が分かりやすいこともあります。
 私はこの手法を使って、英語で学ぶ仏教講座を開催しています。英語が好きな方、観光通訳ガイドをされている方、東京オリンピックのガイドボランティアをされる方など、多くの方々に受講していただいております。
 では、実際に仏教語を英語を介して理解すると、どのような感覚が得られるのか、冒頭で並べた仏教語を例にとって紹介します。
 漢字に囚われず、英語の意味に注目してください。

スタンフォード大学での講演

「諸行無常」
 Everything is changing.[ もしくはEvery phenomena is changing.]
 (すべては移り変わっている)
「諸法無我」
 Everything is interdependent.
 (すべて[の物事]は相互依存している)
「涅槃寂静」
 Nirvana is the state whereby one is no longer affected by any delusion and is at complete peace.
 (涅槃は如何なる迷いの幻想にも悩まされなくなった境地であり、平和である)
「一切皆苦」
 All impure phenomena are of the nature to suffer.
 (不純な「目で見た」すべての現象は苦しみの本質である)

 如何でしょうか。きっとあまりに簡易な表現で驚かれたのではないでしょうか。実は、仏教語の英訳は漢字を翻訳しているのではないのです。サンスクリット語やパーリ語という仏教語の原点に立ち返り、その意味を抽出し、英訳されています。その結果、より丁寧な説明が包含され、理解しやすくなるのです。言い換えるならば、私たちが仏教語に持つ様々な先入観が拭い取られています。
 例えば、「仏」は「Dead Person」(亡くなった人)ではなく「Awakened One」(目覚めた者)、「苦」は「Suffering」(苦しみ)ではなく「Unsatisfactory Mind」(不満足の心)と訳されます。知ったつもりでいた言葉でさえ、私たちは誤解していることもあるのです。

マレーシアでの講演
東京オリンピック・パラリンピック
英語ボランティアガイド向け講習会

 最後に、英語で仏教語を説明するなかで、特に外国人から喜ばれたものがあったので紹介します。それは「煩悩」の英訳でした。
 一般的に「煩悩」は「Defilement」(汚れ)「Desire」(欲望)と訳されます。 しかし、英語圏の人々にはどうもこの表現では「煩悩」を理解し難いそうです。そ こで私は「Calculation」(はからい[計らい])「Self-Centered Calculation」(自分を中心とした計算)と別の表現で説明したところ、理解する上で何かもどかしかった部分がすっきりしたと大変感謝されました。
 私自身、日本語で「煩悩」を分かりやすく説明しろと言われれば口ごもらざるをえなかった部分が、英語で表現することで明確に説明することができるようになりました。
 英語を含め外国語を使用して仏教語を考え、またどのように伝えるか熟考することで、翻って日本語での仏教語理解の深化が促進されることもあるのかもしれません。

2020(令和2)年3月12日発行