校友から学ぶ 91号

校友から学ぶ-仏教について- 校友会報「仏教に学ぶ」
第91号 “仏教総合博物館” 龍谷ミュージアムへようこそ!

2020年10月掲載
※所属・役職・記載内容等は掲載時期のものです

龍谷大学 龍谷ミュージアム 講師(学芸員)
村松 加奈子

村松加奈子(むらまつ・かなこ) 79年愛知県生まれ。愛知教育大学卒業後、名古屋大学大学院文学研究科に入学し、仏教美術史を専攻。09年博士後期課程満期退学。龍谷ミュージアムリサーチ・アシスタント、助教を経て、14年より現職。日本の仏教に関する展示に携わる。主な担当展は「“絵解き” ってなぁに?-語り継がれる仏教絵画-」(12年)、「地獄絵ワンダーランド」(17年)、「日本の素朴絵」(19年)など。趣味は宝塚観劇とサウナめぐり。

龍谷大学 龍谷ミュージアム 講師(学芸員) 村松 加奈子

 11年春、東日本大震災で日本中が混迷する中、“仏教総合博物館”龍谷ミュージアムはオープンしました。特別展「釈尊と親鸞」を皮切りに、アジアの考古遺跡、大谷探検隊、日本の地獄絵…さまざまなテーマの展覧会を開催し続け、来年4月には開館10周年の節目を迎えます。
 はじめに自己紹介いたしますと、私はミュージアムの学芸員で、主に日本の仏教に関する展示を担当しています。校友会の方々はじめ、一般の方への展示解説もしていますので、もしかしたらどこかでお目にかかったことがあるかもしれません。
 ご承知のとおり、龍谷ミュージアムは国・地域・時代・宗派を超えて、仏教文化の広がりを多角的にご紹介する、国内でもきわめてユニークな博物館です。職員の私が申すと手前味噌ですが、当館は関西の大学博物館としては最大級の規模を誇り、学内の資料だけでなく、龍大とご縁のあるご寺院から、文化財を多数お預かりしています。龍大の長い歴史と研究の蓄積があるからこそ、今日のミュージアムがあると実感しております。

ミュージアム正面を歩く学生
ミュージアム正面を歩く学生
仏教文化の「はじめの一歩」

 さて「仏教文化」と聞くと、多くの方は「専門的で難しそう…」と思われるのではないでしょうか。ミュージアムではそうしたハードルを少しでも下げるべく、これから学びたいと思う方にとっての「はじめの一歩」となるような展示を目指しています。
 たとえば、館蔵品・寄託品を中心とした「シリーズ展」では、日本とアジア諸国に伝わる仏像を対比させ、その表現の違いが一目で分かるコーナーを設けています。また毎回、釈尊の生涯を表現したガンダーラの仏伝浮彫や、日本仏教の祖・聖徳太子の絵伝などの実作品を用い、インド・日本の仏教の歩みを分かりやすく解説しています。シリーズ展7では、試験的に学芸員による解説をスマートフォンで聞くコンテンツを制作しました。仏教をわかりやすくお伝えする試みを今後もどんどんアップデートしてまいりますので、在校生はもちろん、卒業生の皆さまにも何度でもお越しいただき、ミュージアムの応援団になっていただければ幸いです。

学生スタッフの解説で鑑賞する様子
学生スタッフの解説で鑑賞する様子
文化財を守り、受け継ぐために
ベゼクリク石窟を鑑賞する学生
ベゼクリク石窟を鑑賞する学生

 その上で、展示をご覧くださった方にお伝えしたいのは「文化財がどんな風に壊れていくかをよく見てください」ということです。当館で展示している文化財は、いずれも数百年、数千年前に出来たもので、一見綺麗に見えますが、じっくり見ると、どれも破損し、ひび割れ、傷ついた状態だと分かります。これらも実は、今までに何度も修復が施され、かろうじて今の状態を保っているのです。諸行無常…とは申せ、文化財を後世へ伝えるためには、さらなる修復を施さねばなりません。しかし、それには社会全体の理解と、多額の費用が必要となります。
 私はこの仕事に就いて、修理を受けられず朽ち果て、打ち捨てられてゆく掛軸や仏像をたくさん見ました。もしその作品の本当の価値が分かる人がいたら、もし文化財を受け継ぐことの大切さを知る人がいたら…その文化財の運命は違うものになったでしょう。展示をご覧になった在学生や卒業生の皆さまが、そんな感情を理解してくださったら、文化財を取り巻く社会はうんと優しく豊かなものになると思います。
 コロナ禍で先の見えない大変な世情でありますが、今後も次々と魅力ある展覧会を開催いたします。どうか引き続きご支援のほどお願いいたします。

2020(令和2)年10月1日発行