2023年5月掲載
※所属・役職・記載内容等は掲載時期のものです
石田 奈津子 さん
卒業年:2009年、卒業学部:文学部
所属サークル:自転車部(1年生の時のみ)
所属ゼミ:龍口明生ゼミ
ブリコルーズ合同会社 代表
寺カフェ茶庭 代表
私は大阪のお寺の娘として生まれました。学生時代は外への好奇心が強く、お寺から離れることばかり考え、龍谷大学文学部で過ごした4年間はとにかく「いろんな場所でいろんな人に会いたい!」と日本中を飛び回りました。
そんな中、卒業旅行で訪れた白神山地で、生き残りのまたぎの家族と出会います。彼らから、後継者がいない山の文化の存在、過疎の村の話を聞き、日本各地に消えゆく独自の文化があることを知りました。その出会いをきっかけに、「地域の文化や伝統を残すための仕事がしたい」という気持ちが芽生えました。
その思いが結実したのは30歳のとき。務めていた会社を辞め、地域と都市を繋げるコーデ ィネーターとして、地域活性化の企画の仕事を始めたのです。
東北から九州までさまざまなエリアを訪れましたが、どの地域の産業も、高齢化や若者の減少による担い手不足に悩んでいます。そんな自治体や地域の事業者と一緒に、移住者獲得や関係人口づくりを目的とした試住体験プログラムや仕事体験プログラムといった、都市部の若者に地域の魅力を感じてもらえるような企画づくりをしてきました。
それらの活動を通じ、私は自身のルーツでもある「お寺」と地域の共通点に気づきました。
2040年には、全国1800の自治体のうち半数が消滅すると言われています。同じように、全国に77,000あるお寺も、20年後には4割が消えると予想されています。江戸時代には戸籍管理を行うなど、現在の自治体の役目を担っていたお寺と地域社会との関係性は密接なものです。少子高齢化が進む社会で、地域もお寺も今後どうあるべきか問われています。「多くの人に来てほしいのに、うまく外の人との接点が持てない。」両者に共通するその特性を実感したことで、自分のアイデンティティーであるお寺に興味を持つようになりました。
現代では「供養」のイメージが強いお寺ですが、元来お寺はコミュニティの中心であり、地域の人・モノ・情報が集まる場所でもあります。その要素を紡ぎ直すことで、お寺、ひいてはお寺のある地域が、もっと面白い場所になるのではないか。お寺には、行政よりミクロの視点で地域づくりに取り組める可能性があるのではないか。そんなふうに、お寺を軸とした地域活性化の可能性を感じ、今は「お寺を開き地域と繋げる」ことを軸に活動しています。
たとえば、大阪の自坊での「寺カフェ茶庭」の運営。2017年、「お寺の普段使い」を目的に、お寺の待合室やお庭をカフェとして開放し、和のスイーツを楽しめる場所として生まれ変わらせました。寺カフェを通して、多様な関わり方のグラデーションを持つ新たな寺コミュニティが醸成されてきているように感じています。
また2022年には、長崎県立大学の「地域における経営実践」というフィールドワークの講義の企画設計・コーディネートを担当。学生25人が、佐世保にある教法寺を拠点に、お寺や地域の資源・課題を発掘し、地域ビジネスプランを考えるカリキュラムを組みました。学生たちは、数百年に渡って紡がれたお寺の歴史、地域からの信頼を活用し、たった3ヶ月間で、地域の香りを商品にしたお香の開発販売、クラフトビールの開発、国際交流イベントの開催といった様々なアクションを行ってくれました。ここで、お寺の持つソーシャルキャピタルの可能性を感じました。
現在は、「お寺のカフェが地域のソーシャルキャピタルを造成する」という仮説のもと、自坊を拠点に大学生の若い視点を取り入れながらお寺を開く可能性を模索しています。
全国のお寺がもつ各々のポテンシャルが花開き、地域や外から来る人々と繋がることで、人の集まるコミュニティが作られていく。それが地域のおもしろい未来を作るのではないかと、私は信じています。